その他の肛門疾患
痔以外にも肛門に症状が現れる病気はいくつもあります。ここではクローン病、肛門尖圭コンジローマ、直腸脱を中心に、いくつかの肛門疾患についてご紹介しています。
クローン病と肛門の病気
クローン病とは
クローン病は、痔をともなうことが多い疾患で、口から肛門までをつなぐ消化管のあらゆる部位に広く炎症が発生する原因不明の慢性疾患です。10~30代を中心とする比較的若い世代に多く見られ、厚生労働省による指定難病にもなっています。
特に炎症が発生しやすいのは小腸や大腸で、その炎症による病変として粘膜に潰瘍(かいよう)と呼ばれる欠損が生じるのがクローン病の特徴の一つです。また、そうした病変の影響で、腹痛や下痢、下血、発熱、体重減少などの症状も現れます。
さらに、クローン病による病変として全身の様々な場所に合併症が発生することもあります。中でも高い確率で合併症が見られる部位が肛門で、裂肛(切れ痔)や痔ろう(あな痔)、肛門周囲膿瘍(のうよう)、肛門皮垂(ひすい)、さらには女性特有の肛門膣瘻(ちつろう)などが発生する場合があります。肛門病変を訴えて来院され、クローン病が発見されることも少なくありません。
クローン病による肛門病変
クローン病による肛門病変として最初に合併しやすいものには肛門潰瘍や裂肛などがあり、これらを一次病変と呼びます。このうち裂肛は、通常の裂肛とは異なり、損傷の幅の広さやその周囲の粘膜に現れた浮腫(むくみ)などにクローン病ならではの特徴が見られます。
また、こうした一次病変に細菌感染や瘻孔(ろうこう)と呼ばれる管状のトンネルなどが加わることで、さらに痔ろうや肛門周囲膿瘍、肛門皮垂、肛門狭窄(きょうさく)、肛門膣瘻などを合併することがあり、これらを二次病変と呼びます。中でもよく見られるのが痔ろうで、特にクローン病においては瘻孔が長く枝分かれしながら複数の出口へと走る複雑痔ろうとして発生する傾向があります。
肛門病変からクローン病が疑われたら
繰り返す痔ろうや若年発生の痔ろうなどクローン病が疑われるような方は、大腸内視鏡検査にて検査することをおすすめいたします。
クローン病による肛門病変の治療方法
クローン病の治療をまず行います。クローン病の治療法としましては、まず薬物療法を行い、症状を安定させる治療を行います。症状が安定し痔ろうの炎症が軽快されたところで、手術を検討いたします。
クローン病であることを知らずに手術を行うと、いつまでも傷が治らなかったり、何度も痔瘻が再発することがあります。このことからクローン病の症状を改善することが重要なのです。
患者様によって症状などが異なりますので、状態を把握した上で適切な治療を行なっていきます。
肛門尖圭コンジローマ
肛門尖圭コンジローマとは
肛門尖圭(せんけい)コンジローマとは、肛門の周辺にイボ状の小さな突起ができる病気です。特に10代後半~30代の若い世代に多く見られますが、基本的には誰にでも発症の可能性がある病気です。性感染症ですから、パートナーとともにしっかり治療を受けることが重要です。
原因は子宮頸がんの原因ともなるヒトパピローマウイルスへの感染で、その大半は性行為中に皮膚や粘膜の傷から感染したものと見られます。そのため、突起は肛門だけでなく性器の周辺にも現れます。
こうした突起は痛みやかゆみを発するようなことはほとんどありませんが、放置すると大きさや数を増したり、場合によっては肛門の内部にまで広がったりすることもあるので注意が必要です。
原因ウイルスによる癌化の可能性
尖圭コンジローマの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)には100種類を超える型が存在し、それらが癌化の可能性の有無によって高リスク型と低リスク型に大きく分類されています。例えば、子宮頸がんなどはこのうちの高リスク型が原因になることが知られていますが、一方の尖圭コンジローマは低リスク型のHPV6型と11型が原因の大半を占めています。したがって、通常は尖圭コンジローマ自体が癌化するようなことはほとんどありません。
ただし、低リスク型に感染したということは、同じウイルスの高リスク型にも感染する可能性のある環境に身を置いていたということにもなります。また、稀に高リスク型のHPV16型が原因となってボーエン様丘疹症(ようきゅうしんしょう)という病気が発生することがあり、その病態が尖圭コンジローマと類似していることから、それぞれを誤認しないよう正確な鑑別が望まれることもあります。
こうしたHPVの型は検査で比較的簡単に判明するので、何であれ突起に気がついたら、早めに病院を訪れて専門医に診断を任せることが大切です。
肛門尖圭コンジローマの感染経路
尖圭コンジローマは、梅毒、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスなどと同様に性行為によって感染する性感染症(STD)の一つと位置づけられています。したがって、自分の感染が判明したら、自分と性的な関係を持つ間柄のパートナーにも感染している可能性が十分にあります。また、その感染を介する性行為には通常のセックスだけでなくアナルセックスやオーラルセックスなども含まれ、そうした種々の性行為におよんだ人から人へと知らぬ間に感染が広がっていきます。しかも自然治癒の望みにくい病気なので、広がる感染を断ち切るためには治療への積極性が強く望まれます。
肛門尖圭コンジローマの病態・症状
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルスへの感染から3週間~8ヶ月ほどの潜伏期間を経て発症します。
突起の大きさは数mm~数cm、色も白、ピンク、茶、黒と様々で、先が尖ったような形のものが多いのが特徴です。こうした突起は最初は小さなものから少しずつ現れ始め、痛みやかゆみが生じることはほとんどなく、他に目立った症状も現れないため気づかないうちに悪化させてしまったり、その間におよんだ性行為によって無自覚に感染を広げてしまうようなことが発生します。しかし、小さかった突起もやがて大きさを増したり、数を増やしてカリフラワーや鶏のトサカのような固まりを形成したりしていきます。また、通常は肛門の周辺にのみ見られますが、アナルセックスによる感染の場合、突起が肛門の内部にまでおよび、そこで多発するようなこともあります。
潜伏期間が長く、総じて自覚症状も現れにくいため、病院を訪れるタイミングが遅れることの多い病気ですが、見た目の問題はもちろん、自然治癒が望みにくいこと、人に感染すること、極めて稀に癌化する可能性があることなどから、少しでも早い段階から積極的な治療に励む必要があります。
肛門尖圭コンジローマの治療法
尖圭コンジローマの治療法には有効成分配合の軟膏を塗布する薬物療法と突起を外科的に除去する外科的療法があり、突起の大きさや数などに応じて適した方法が用いられます。
外科的療法
当院では外科的療法を行なっております。外科的療法では、突起を外科的に除去することを主な目的として治療が進められます。そのための方法には以下の4種類が挙げられます。
- 外科的切除:メスや鉗子(かんし)を用いて突起を切除する方法です。
- 焼灼療法:高周波電気メスを用いて突起を焼灼し、切除する方法です。
- 凍結療法:液体窒素のしみこんだ綿棒を突起に押し当てて凍結し、除去する方法です。
当院では主に焼灼療法を行っております。局所麻酔下に病変を電気メスで焼灼するという方法です。その際、再発を防ぐためにはなるべく深い位置まで焼灼する必要があります。
基本的に治療は日帰りで行うことが可能ですが、社会復帰までに要する時間は治療を施した面積などによって異なる場合があります。例えば中には翌日からお仕事に復帰されるような方もいらっしゃる方もいれば、数日程度をご自宅での安静期間とされる方もいらっしゃいます。
治療中の注意点
肛門尖圭コンジローマの治療中は、主に以下のような点にご注意の上でお過ごしください。
- 完治するまで性行為は禁止となります
- 完治するまで大衆浴場やサウナ、温泉などの利用を控え、バスタオルなどの共用も避けてください。
- パートナーにも感染の可能性があることを伝え、症状がなくても専門医を受診するようすすめてあげてください。
- 他にご不明の点などあれば、当院までお気軽にお問い合わせください。
再発の可能性
尖圭コンジローマは残念ながら再発率が高く、治療を済ませた方の4人に1人が約3ヶ月以内に再発するといわれています。その理由は、肉眼で確認できる突起を全て除去できたとしても、原因となっているウイルスまでを完全には除去できていないことが多いためと考えられています。それにより、治療を済ませた後も潜伏を続けていたウイルスが再び活動を開始することで、再発が生じるのです。
そのため、治療を済ませた後も経過観察のために最低約3ヶ月間は通院を続けられることをおすすめしております。また、実際に再発した際にはすみやかに病院を訪れ、再びの完治を目指して根気強く治療を続けていくことが大切です。
直腸脱
直腸脱とは
直腸が肛門から飛び出してくる疾患です。早期には痛みなどがないため、気付かずに受診が遅れるケースが珍しくありません。進行すると強い痛みや、下着にすれて出血し感染を起こすことがあり、便失禁や排便困難といった症状が現れることもあります。また、強い痛みを起こす嵌頓(かんとん)直腸脱が起こることもあります。
高齢の女性が発症するケースが9割以上ですが、若い男性に多いタイプの直腸脱や発育不全にともなう小児の直腸脱もあります。最初、下着の汚れなどで気付くことが多いのですが、他の肛門疾患でもこうした症状が出ることがよくありますので、早めに受診しましょう。
直腸脱の症状
- 下着が汚れる
- 残便感があり、排便後もすっきりしない
- 腹部や肛門周辺の違和感
- 排尿しにくい
- いきみや歩行で脱出が起こる
- 下着に血がつく
- 便失禁や排便困難がある
- 戻しても再び脱出しやすい
直腸脱の原因
肛門のしまりを調節する機能を持った肛門括約筋や肛門挙筋などが、加齢などによる筋力の低下で機能を低下させて発症します。ほとんどの場合、排便時のいきみをきっかけに、直腸の粘膜や、直腸壁が反転し、肛門から脱出します。排便時に長時間、強くいきむ習慣があると発症しやすく、便秘により直腸脱を起こすリスクが大きくなっています。
発生はまれですが、若い男性に多いタイプの直腸脱もあり、これは直腸の奥にあるS字結腸の長さや直腸の角度が原因にかかわっており、それに加えて排便時に強くいきむ習慣があると発症しやすいとされています。
小児に起こる直腸脱は、ほとんどが肛門括約筋や肛門挙筋などの筋肉の発育不全によるものであり、成長とともに解消していくケースがほとんどです。便秘にならない食生活や、排便時に強くいきまないなどの生活習慣の改善で症状を進行させないように注意しながら発育を待ちます。
直腸脱の検査と診断
内痔核など他の肛門疾患の可能性がありますので、確定診断のためには脱出している時の観察が不可欠です。たまに脱出が起こるケースでは、腹圧をかけるなどで脱出させた状態をチェックする場合もあります。
検査では、肛門内圧検査、排便造影検査、怒責診断、骨盤MRI、大腸がんと見分ける大腸内視鏡検査などから必要なものを行っていきます。診断には、肛門括約筋の収縮力低下についての確認も必要です。
直腸脱の治療
手術による外科治療が適しています。脱出の程度が軽い場合には肛門側から行う経肛門的手術が可能ですが、5㎝以上と大きく脱出している場合には全身麻酔を行って開腹し、おなか側から直腸を引っ張り上げる経腹的手術が必要です。こちらの手術は当院で行なっていないため、信頼できる専門医療機関をご紹介させていただきます。
直腸脱はほとんどの場合、高齢の女性が発症するため、年齢や全身状態を考慮して、経肛門的手術を行なっております。
日帰り手術が可能です。
手術について
三輪-Gant法
脱出している直腸の表面粘膜を吊り上げて糸を通し、縛って脱出を解消します。
デロルメ法
脱出している直腸の粘膜をはがして筋肉を縫い縮めることで、脱出を解消します。
再発について
肛門括約筋などが加齢によって弱くなっている場合、手術を受けても再発するリスクがあり、手術方法により再発率は変わります。そのため、手術方法を選択する際には、再発率についても考慮する必要があります。
再発を防ぐために
肛門括約筋の機能は手術をすることによりほとんどの場合、ある程度の改善を確認できます。さらに、手術後は肛門括約筋の筋力トレーニングを行って、脱出を起こりにくくすることで、再発のリスクを下げていきます。また、長時間強くいきまないようにする、便秘になりにくい食生活を心がけるなども再発防止には重要です。
肛門掻痒症・肛門周囲炎
肛門掻痒症の原因は、内痔核、切れ痔、痔瘻によるものほとんどです。これらの疾患により、出てくる分泌液が皮膚に付着し、肛門周囲の皮膚に湿疹を起こします。他に、単純の肛門周囲の皮膚が弱く、汗などでかぶれたり、女性では陰部のカンジダ本線が波及することがあります。自己判断するのではなく、かゆみに気付いたら早めに受診しましょう。
肛門周囲膿瘍
痔ろうの原因となる疾患で、強い痛みと腫れが起こり、発熱をともなう場合もあり、早急な治療が望まれます。麻酔を行って切開し、膿を排出させれば痛みなどの症状は解消しますし、稀ですが自然に治まることもあります。ただし、自然に治まった場合は、すでに痔ろうを発症しており、こうなると手術以外で完治することはできません。
単純性ヘルペス
ヘルペスウイルスの感染によって起き、いったん治ってもウイルスが体に潜伏するため疲れなどで体の抵抗力が落ちると再発を繰り返します。症状は、肛門周囲に水泡が多数でき、痛みが強いことが特徴です。内服薬で治療します。
毛巣洞
毛が皮膚の下に入り込み、細菌が繁殖して膿が溜まります。毛深い男性が発症することが多く、尾底骨周囲に膿が溜まります。手術的治療の対象となります。
乳児痔ろう
乳児が発症する痔ろうですが、一般的な痔ろうと違い、成長にともなって自然に完治するケースが多いですが、稀にクローン病という難病を合併している場合があるのでご相談ください。適切な診断の上、専門医療機関をご紹介いたします。